ところどころに、筆者のコメントも加えてあります。
総選挙を控えて、民主党もプア・タイ党も最低賃金の引き上げを提案している。
タイの最低賃金は、昨年暮れにも、平均6.7%、一日当たり176バーツへの引き上げがされている。
政府は、自分の予算を使わず、民意の歓心をうる、うまい手段だ。
「来年は大幅に引き上げられるタイの最低賃金 2010-12-14」
http://uccih.exblog.jp/12499127/
民主党は、2年間で25%以上の大幅引き上げを約束している。
来年、平均200バーツ/日に迫り、再来年には220バーツに達することになる。
これでは、いったん追い抜かれた中国の平均最低賃金を抜かし返しかねない。
プア・タイ党は、さらにその上を行く。
直ちに一日300バーツへ引き上げるというのだ。これでは、70%の引き上げだ!
タイ人の平のサラリーマンの月収は10000~12000バーツにはいく。日給にすれば、500バーツくらいにはいくので、最低賃金とは、もちろん隔たりがあるが、最低賃金の引き上げは、農産物のコストアップに、いつもつながっている。
選挙での票を得るための、低所得者向けの無責任な約束は、経済的にもマイナス効果が大きい。
本来なら、単純労働者を技術訓練して、スキル労働者に仕上げていくのが先決だろう。
技術を持てば、収入が高くなるだけでなく、長期的にも安定した雇用を得られる。
労働生産性のアップなしに賃金だけ上がれば、そのまま生産物、サービスの価格アップにつながることは目に見えている。
最低賃金の大幅引き上げも、結局は高騰する生計費アップに追いつけなくなり、さらにタイの国際競争力を損なうことになる。
現在でも、タイは単純労働者の高い最低賃金と低労働生産性を補うため、多くの安い外国労働者を使っている。現在タイで働く外国人労働者の数は、300万人と推定される。つい最近まで100万人を越えたといわれていたが・・・。これらは、最低賃金ないしそれ以下で使われている。
うち130万人が合法的な移民労働者だが、残りの170万人近くは非合法の外国人労働者だ。労働力輸入のブローカーの暗躍は後を絶たない。
外国人労働者のうち8割がビルマから、残りがカンボジアとラオスからだ。
ビルマは、今形式的な民政移管をはたし、石油・ガスの開発、工業開発、将来タイのレムチャバンを凌ぐことになるかもしれない新ダウェイ深海港プロジェクトに力を入れ始めた。ビルマは、海外投資家の関心の的になってきている。
もし、将来タイの工場がビルマに移転するようになったら、タイランドはどうするのだろうか。
タイ政府は、これを意識して、タイ人労働者の技術アップに尽くしているとは見えない。
さらに、タイは人口の高齢化の問題を今後10~15年後に抱えている。
年間530万人の労働者がリタイアするのに対し、労働市場に新規参入する若い人の数は410万人と、これを下回ってくる。
10年後、ビルマの65歳以上の人口比は、なお6.4%と低いのに対し、タイはこの倍の12.9%になろうと推計される(日本は28.5%)。
タイにおける安易な労働者の技術を高めない最低賃金のアップは、タイの将来の国際競争力を危ういものにしていく。今でも、アジアの生産基地なのに、技術労働者は不足しているのに・・・。