問題含みだが、「学卒初任給一律月15000バーツ」案は
何と評していいのだろう?
「政治家は票を得るために何でも言うが、それが実際的かどうかは
考えていない」というのが、一番適切な評価だろう。
「タイでは会社員への給与の最低保証が選挙公約 2011-5-18」
http://uccih.exblog.jp/13600171
このアイデアは、若い層の票を獲得するには、就職する時の給料を
あげてやればいい、という発想から来たのだろう。
ちなみに、タイの選挙権は世界の趨勢である18歳(日本は20歳?)。
この公約で多くの大学生世代の票が取り込めると思ったのだろうか。
敗れた民主党も、月次給与15000バーツ税優遇案を出していた。
7月11日のバンコク・ポスト紙に「あてにするな」という
良いインタビュー記事が載っていたので紹介する。
現在のタイの初任給は、およそ月9000~12000バーツの
レベルだから、15000バーツというのは、実現すれば、
一挙に67%~25%(平均45%ほど)の引き上げとなる。
しかし、その実現には懐疑的な見方が多い。
このアイデアは、政治家は、実際にできるかどうかを考えないで
公約を打ち出すといういい例だ。
もし初任給を大幅に上げるなら、会社は、全体の給与体系を
上げざるを得なくなる。単に初任給の引き上げだけではない。
しかも、企業の競争力を損なわない形でだ。
「同様な学卒で、すでに入社していて12000バーツを
もらっている社員にはどうしたらいいの?
一度会社を辞めて、再就職してもらう?」
それは、ばかげているということになる。
タイ貢献党の経済担当は、
「そのコストアップ分は、法人所得税の引き下げ(30%から23%へ。
さらに2013年に20%へ)でカバーしてもらえる」と言っているが、
これも現実を無視している。
① 中小企業は、そんなに法人税減税でカバーできるほど、
利益水準が高くない。
②大企業も含め、賃金アップは企業利益を縮ませるので、
法人所得税減税の効果は小さくなる。
そもそも給与アップを法人税減税でカバーしようという
発想が、なんともタイらしいと言うのか、奇異に見えるが・・。
スーパー・チェーン「テスコ・ロータス」の
人事担当者は言っている。
「うちの初任給は、12000バーツを13000バーツに
引き上げたところだが、給与は、資格、職能、経験によって
決めるべきものだと思う。この案を強制されたら、
わが社のすべての給与体系を変えなくてはならない」と。
就職する学生の側からも、この案については懐疑的な
見方が多い。
ある学生は言う。
「自分は、会計の職に就きたいと思っているけれど、
だいたい初任給は10000~12000バーツだわ。
これで就職して、望みは少ないけど、
15000バーツに上がるのを待とうかしら」。
タマサート大学の法学生は言う。
「今の生計費を考えたら、確かに15000バーツが適切
なのかも。でもどこもそんな高い給料をオファーしてくれる
会社はないわ」と。
仮に、学卒初任給15000バーツが決まったら、
企業は、学卒を敬遠して、フリーランサーや非正規社員を
もっと採用することになりかねない(学卒就職浪人が増えてしまう!?)。
それが市場の原理だ。
政府が企業の給与に口出しするなら、
国の戦略に基づいて、力を入れる業種や職種の
給与にインセンティブを与えるようなことをすべきだ。
タイランドも曲がり角に来たのかもしれない。
農民や建設労働者、そしてサラリーマンの所得を上げて
先進国の仲間入りを果たすのはいい目標だが、
無理ムリ、所得アップを先行させると、インフレ上昇や
国際競争力の低下といった国の経済全体の問題を
引き起こすのだが・・。