タイ貢献党政権の「コメ抵当スキーム」。
農家は生産した籾を政府の指定する倉庫に“質草”として納めれば、
トン15000バーツという市場価格を6割ほど上回る高い抵当価格で
引き取ってもらえる。市場価格がこれを上回るほど高騰しなければ
(まずないだろうが)、そのまま“質流れ”となってかまわない。
農家は、高い所得を手にできるという、タイ貢献党の所得の低い
農家への援助策である。
タイの米生産はたいてい2期作で、
雨季作(1期作)は、5~8月頃に種を播いて、11~2月頃に収穫する。
乾季作(2期作)は、12~2月頃に種を播いて、5~8月頃に収穫される。
1月現在の今は、雨季米の収穫はほぼ終わり、乾季米の種播きが行なわれている
時期だ。
タイ全土の米の生産量は、籾ベース(精米すると69%ほどの重量に減る)で
3600万トンほど(精米ベースで2500万トン)だが、
うち7割近くの2500万トンは雨季米である。
とりあえず、これが10月7日にスタートし、2月末に終了する今回の
コメ抵当スキームの対象である(そのあとは、1100万トンの乾季米を
対象とする第2回の抵当スキームが始まるが)。
政府は雨季米2500万トンほどが、コメ抵当スキームに入ってくるものと予想し、
4300億バーツほどの大きな資金を講じていた。
しかし、10月以来、昨年末まで抵当スキームに持ち込まれたコメは、
470万トンに過ぎないという(いずれも籾ベース)。
10月はまだ少ないが、11~12月と雨季米の収穫は増えているはずである。
雨季米2500万トンのうち、本来なら年内は1600万トンくらいが抵当に入ったはずだ。
もっとも、中部平原では大洪水があり、700万トンくらいがやられたと言われる。
中部平原の年産量は通常で1300万トン(全国の3分の一)ほどであり、
うち雨季米となると950万トンくらいであろう。700万トンは多すぎるかもしれないが、
おそらく500~600万トン(籾量)は被害にあったのではないだろうか。
年内の雨季米1600万トンから洪水被害の600万トンを引くと、
1000万トン。年内1000万トンになっているはずが、半分の470万トンしか
出てこなかったというミステリーになるのだろう。
犯人探しでの容疑者は、以下の4つになると見られている。
1.登録票の発行の遅れ
コメを納めた農家は、登録票(バーイ・プラトゥアン)を受け取り、
これを銀行に持って行ってキャッシュを得るが、これの発行が
遅れており、納入米の数が十分反映されていないと、商務省では
見ている。
2.洪水の影響
洪水地帯の稲は、洪水対策として、
トン当たり2,222バーツの補償金を得られるので、
抵当スキームに持ち込むよりも、こちらで処理する
農家が多かった。
3.借金の肩代わりにされる恐れ
抵当金は、キャッシュで受け取る代わりに、
政府系の「BAA」(農業農協銀行)に借金のある農家は、
借入残高からその分を差し引かれるだけとなり、
キャッシュが手元に入ってこないと怖れられた。
4.精米・輸出業者の隠匿
値上がりをねらう業者のコメの隠匿は
数百万トンにのぼるのではないかと、
タイ米輸出協会では見ている。
以上のように、幾多の人間がかかわるややこしい
コメ抵当スキームの欠陥(つけいる人間には隙間)が、
抵当へのコメ供出が少ないミステリーにも現れたのでは
ないだろうか。