タイの米価引き上げ政策は、事実上失敗した。
もっとも、政府はこの2月末で終わる雨季米の買い上げに続き、3月から
5月まで、引き続き乾季米についても、白米トン15000バーツ、香り米20000バーツ
という抵当価格を変えないで、スキームを持続する。
タイは世界一のコメ輸出国だといっても、
世界のコメ生産量は4億5千万トンにも及ぶわけだから、
タイが1000万トン輸出しているからといって、わずか世界のコメの
2.2%を動かしているに過ぎない。
今回のタイ政府の輸出米価引き上げ作戦は、「井の中の蛙大海を知らず」
と言われてもしかたないことだ。
しかし、乾季米の植え付けが始まって、タイ貢献党政権は、
なおなんとかして輸出タイ米価格の引き上げを実現しようともがいている。
昨年のタイ米の輸出額は1,900億バーツ(前年比13%増)。
輸出量が1,060万トン(+12%)だったから、輸出平均価格は、
トン17,900バーツ(595ドル、前年なみ)だった。
タイ政府のコメ抵当スキームでは、農家に対し15,000バーツでの買い上げを
保障しているのだから、輸出価格は、トン24,000バーツ(800ドル)以上を
ねらっていることになる。
しかし、タイ米は実際はトン570ドル(17,000バーツ、精米、輸送、保管費用
を含めたFOB輸出価格)ほどでしか海外に売れない。
つまり、農家からの出荷価格ではトン1万バーツ弱が市場価格だということだ。
インドやベトナムがもっと安い価格でオファーしているからだ。
タイ米のトップ5市場は、ナイジェリア、インドネシア、バングラデッシュ、イラク、
コートジボワールといった所で、価格競争が厳しいはずだ。
実際、12月、1月のタイ米の輸出量は半減している。
政府は、トン800ドルが無理なら、700ドルでと乾季米の輸出をねらっている。
「量より質で、2,000億バーツ目指す」と、新任のブーンソン商業大臣は
息巻いている。700ドル(21,000バーツ)×950万トン=2,000億バーツ
といった計算だろう。
しかし、今年の輸出は、減り方が少なく800万トン輸出できたとして、
輸出価格は、世界的なコメ不足が起こらなければ、平均600ドル(18000バーツ)
がいいところだろう。
政府の思惑は外れて、タイ米の輸出代金は1,400億バーツ台に
落ち込む可能性が高いだろう。
商務省の会合には、「チャイヤポーン米食製品」、「CPインタートレード」、
「アジア・ゴールデン・ライス」といった大手輸出業者3社しか招かれておらず、
「コメ輸出業者協会」は、抵当スキームに反対している。
コメ抵当スキームの実施に当たって懸念された、腐敗だけは進行しているようだ。
特に今回は、洪水でコメ収穫量が減ったので、農家が供給できない分を、
精米業者がトン1000バーツ払って買い取り、自らのコメを農家の名前で
抵当に入れているケースも見られると言う。
このまま行くとどうなるのだろうか?
市場の値段や輸出価格は上がらないで行く。
政府は、高価格で買い取る。それも農家に恩恵が行くより、
精米、流通業者に行きそうだ。
その分、政府の補助金というか、高額買い取りのコストだけ
膨れ、財政の赤字を増やす。
業者や役人を太らせ、財政赤字を増やし、タイ米の輸出を減らし、
タイを世界一のコメ輸出国の地位から引き降ろす。
もしこうなったら、何のための政策になるのだろうか。