タイ貢献党による「30バーツ医療復活案」に対する賛否ほど
ニュースを見ていても解らないものはない。
ご存知のように、タイの医療制度は、
公務員向けの「CSMB」(公務員医療制度、対象760万人)、
民間企業社員向けの「SSF」(社会保障基金、対象920万人)に加え、
これらの医療保険制度でカバーされない農民や自営業者向けに、
2001年のタクシン政権のときに「UC」(ユニバーサル・ヘルスケア)制度が
できた。
「タイの30バーツ医療制度に参加した私立病院の悩み 2011-8-1」
http://uccih.exblog.jp/14246839/
この4,830万人を対象とする全国民医療カバー制度は、
途上国の中でも先進的なものである。
地元の指定病院(主に公立病院)に行けば30バーツで医療を
受けられる制度だ。
この制度は、民主党政権時代に、その煩雑さからカード提示による
無料医療制度へと変わった(今でも“30バーツ医療制度”と呼ばれることが多いが)。
そして、今起こっていることは、タイ貢献党政権が、この制度を
再び30バーツ徴収に切り替えようとしていることに対し、反対意見も多いと
いうことである。
推進派の意見は、無料ゆえ、病院は過剰に混雑し、病院も大変で、
財政も負担が大きいので、30バーツ徴収に切り替えるというものだ。
反対派の意見は、医療は貧困者のためにある。たとえ30バーツでも
毎回徴収することになれば、貧困者の懐は痛み、破産するというものだ。
まるで、推進派のタイ貢献党と反対派の民主党が入れ替わったような
議論だが、どうもわかり難い。
ある試算によると、公立病院は、この無料制度により100億バーツの
欠損となっている。もちろん政府からの補助も含めての話だろう。
1年間に、この制度を使って病院を訪れる患者数は、延べ1億2,000万人
ほどと言われる。一人年平均2.5回の計算になる。
仮に、この数から30バーツずつ徴収すれば、年36億バーツの収入になる。
不足分の36%ほどが賄える計算だ(実際の患者数は減るだろうが・・)。
しかし、ひとり1回30バーツが、反対派の言うように、それほど負担になるものだろうか。
もちろん、30バーツの負担だけでなく、病院に行くには交通費や食事代など
ひとり200バーツ前後かかるから、いくらかでも負担を減らしたいことは
やまやまだろうが。
どうも、争点は別のところにありそうだ。
全国の834の公立病院のうち、495病院の財政が苦しいと言われるが、
主に、人件費、残業代の上昇が負担になっていると言う。
医療コストを抑えたい国、保険局、病院に対して、
医者をはじめ医療従事者は、これ以上頭を押さえられたくないようだ。
保険局と医療従事者の対立が、30バーツ医療の復活を巡って
火花を散らしていると見られるが、実際はどうなのだろうか。