市場原理主義者にも困ったものだが、タイの政治家のように、市場経済の
原理に疎く、「人工的に安い店を作れば低所得者層が助かるだろう」と
まじめに考える市場経済音痴にも困ったものである。
最低賃金の引き上げを機に、諸物価がすでに高騰しているタイランド。
賃金が仮に上がっても、物価が上がれば追いつかない。
「賃金は一様に上がりにくいが、物価はすべての人に対しあまねく上がる
ので、単なる賃金水準の引き上げは生活向上に役に立たない」と思っていたら、
タイの政治家の中に手品師が現れた。
「賃金アップで物価が上がるのはある程度やむをえない。
高所得者はビッグCのスーパーでいいものを高く買えばいい。
低所得者には、政府が安い店を作ってやる」ときたものだ。
政府が設営する日用品安売り店「トン・ファー」(青旗)のアイデアが
出たのが昨年のことだ。
「そんなもの無理だよ、どうなるのかなあ?」と思っていたら、
この3月下旬になって、「青旗はやめて、代わりにトゥーク・チャイ(お気に入り)店を
1万店、16億バーツかけて作る」とブーンソン商務大臣が言ってきた。
1店当り13万バーツは、店を作るだけの予算である。
仕入れ、在庫は関係なさそうだ。
市価より20%安い米や食料油や砂糖など日用品20品目の店を、
6ヶ月以内に1万店全国に作ると、まじめに言っているようだ。
どういう手法があるのだろうか?製造者に安い価格で泣いてもらうのだろうか。
国内の小売り・卸売り協会は、
「過去にシン・タイ(タイのもの?)ブランドで同じようなことをやろうとして、
物が悪く失敗したじゃないの。性懲りもなくまた繰り返すの?
私たちの物流ネットワークをうまく使った方がよほどいいものが安く提供できるよ」
と冷ややかであるが、その通りであろう。
どこの世界に、小売業が必死になって安くてよいものを提供しようと
競い合っているところに、政府がお金を提供して、これで安いものを
供給しろと言って、誰がどういう形で実現できるのだろうか?
「こんな子供だましみたいなやり方はないだろう。
失敗は目に見えている」と笑ってはいけない。
この廉価日用品供給店は、最低賃金大幅引き上げ、
学卒給与引き上げの“免罪符”に使われるのだから・・。
さて、来月から1号店ができると言うから、しばらくたったら、
「ツーク・チャイ」のブランド店を探しにいこう。
どこかに見つかるかなあ?