ペプシコーラが消えて、話題になっている。
以前書いたが、タイではペプシが炭酸飲料のトップ・ブランドだ、
いや、だった。
「タイにおけるペプシコーラとコカコーラの競争 2011-01-23」
http://uccih.exblog.jp/12743992/
ペプシのボトラーは、「サーム・スック」社だった。
1952年にペプシを売るようになって、昨年までで59年間の付き合いだった。
前回に触れたが、2010年に、ペプシコは、41.5%株式を持っていたサーム・スック社に
対し、敵対的TOBをかけ、子会社化を試みたが失敗した。
同じく大株主のSSナショナル・ロジスティック社(SSNG)の反対などにあった
(そもそも相手の嫌がる敵対的テンダー・オファーをかけてうまく行く試しは少ないが)。
SSNGは、その後サーム・スック社の株式を32.6%まで買い増した。
そして、翌2011年4月1日、ペプシコとサーム・スックの契約締結がこじれ、
59年間続いた関係にピリオドが打たれた。
サーム・スック側は、少数株主にとうてい呑めない条件だと言い、
ペプシコ側は、なんとも不合理な条件があるというが、
具体的な争点は不明だ。
サーム・スックは、12年11月まではペプシを扱ったが、
そのあとは自社ブランドの「エスト」に切り替えた。
ペプシもコークも置いてない店でエストを仕方なく飲んだが、
甘く破裂する甘味飲料だ。アメリカのコーラの味の方が舌になじんでいる。
自らの商品だからこそ売れると思うペプシコ側と、
自分らの販売力があるからこそ売れると自信を持つサーム・スック側の
ともに自負がぶつかった対立だったのだろう。
前年の敵対的買収騒ぎもしこりを残したはずだ。
タイは、東南アジアでも最大の炭酸飲料市場
(18億ドル、約1700億円)と言われる。
また、ペプシがコカを上回っている数少ない市場のひとつだ(った)。
年間一人当たり39.2リットルの消費量は、アジア平均の4倍とみられる。
我家でも、ペプシコーラは暑い日の常備品だ。
日本はたしか、コーラ系炭酸飲料の消費量は、
一人当たり20リットル台のはずだ(ビールが50リットルほどだ)。
2011年9月9日には、ペプシコは関係の切れた41.5%持っていたサーム・スック株を
タイ・ベバレッジ社に一株58バーツという高めの価格で売却した(総額64.1億バーツ、
約192億円)。
タイ・ベバレッジ社とは、95年に発売し、今やシンハを上回り、
タイのビールのトップブランド(シェア50%近く)となった「チャーン・ビール」で
財を成したチャルーン(今年のフォーブスの世界長者番付でも資産1.1兆円で、
世界第82位)の創った会社である。
チャーン・ビールのほかに、メコン、サンソム、ホントンといったラム焼酎を
製造販売しているが、またタン氏からOISHIグループを買い取り(シェア89.3%)、
2013年に入ってからは、シンガポールの食品コングロマリット「フレーザー・ニーブ」
までも呑みこんだ。
なお、タイ・ベバレッジ株は、タイではなくシンガポール取引所に
上場されている。華人系タイ人らしい。
サームスック社(3月よりSermsukと一文字に社名変更)の
現在の主要株主は、タイ・ベバレッジが64.7%、
SSナショナル・ロジスティックが32.6%となり、ペプシコとは完全に切れた。
ペプシコは、サームスックに離れられどうするか?
タイにおいて、なぜかドイツ・ポスト社にボトル配送を依頼するといわれる。
なぜ外国の郵便会社にやらせるのかは知らないが、
いずれ以前のようにペプシがタイの食堂、レストランに並ぶようになると
ペプシコの幹部は言っている。
ボトラーのペプシ離れは、市場にはっきりと出てきている。
街の食堂に行っても、いまだペプシの看板が出ているが、
エストしか置いていないところが多い。
ACニールセンの調べによると、
2011年には、ペプシが48%のトップを占めていた(コークは42%、
残りの10%はサームスックが前から売っていたでかいビッグ・コーラ)
タイのコーラ市場(2012年440億バーツ)は、
2012年末には、コークが50%と初めてトップに立ち、ペプシは
34%へ落ち込んだ。
そして、直近の2月には、発売4ヶ月目のエストが19%のシェアを獲得し、
ペプシは15%まで落ち込んだ。コークはトップの50%超だ。
ペプシとサームスックのいさかいは、
漁夫の利と言うか、「とんびに油揚げをさらわれる」と言うか、
コカコーラにプラスをもたらした。
この結果、コカコーラの世界200カ国の販売で、タイは
世界第19位と、ベスト20に入ってきた。
エストとペプシの競争はどうなるのだろうか?
エストというタイ製コーラが、このまま伸びるとは思えないが、
タイ・ベバレッジの力はあなどれない。
タイの食堂のテーブルカバーは、すでにエストのものに変わっている。
しかし、ボトル配送網さえ復活されれば、ペプシの味が
忘れられることもないだろう。
世界ブランドの飲料に対するタイ製コーラ飲料の戦いは
ドンキホーテの戦いに終わるのか、それとも?
行方が注目される。