その国の経済状態の推移を示しているわけだが、
同時にその底に横たわる経済構造の問題の表層部でもある。
インド経済は、ここにきて少し改善の気配を見せてはいるが、
その経済構造(たとえば、資本の自由化、流通業の自由化、
補助金財政からの脱却、製造業の育成など)は、
アセアン主要国など他のアジア諸国と比べても遅れている。
4回目の今回は、インドの経済構造の問題を覗いてみよう。
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インドの経済構造の特徴は、タイなどと違って、
製造業がなお薄弱なことであろう。
インドのGDPのほぼ半分はサービス分野だが、
製造業は28%と、89年当時の25%からあまり伸びていない。
製造業の雇用も、過去数年でむしろ縮小し、
毎年労働市場に入ってくる1,200万人の受け皿としても
あまり機能していないようだ
(現在は製造業の省力化が進んでいるせいもあろう)。
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インドの経済発展は、日本などと違って、面白い
経緯をたどってやってきた。
日本なら、軽工業から重工業へ、そしてサービス業の
裾野が広がってきた。
インドは、設備投資をする資本力が乏しかったこともあり、
コンピューター・ソフトの開発やアウトソーシングなど
資本のかからないサービス業をまず発展させた。
例えば、鉄鋼会社⇒コンピュータ・ソフトが日本などの形とすれば、
インドは、コンピュータ・ソフト開発会社⇒鉄鋼業へと逆の形でやってきた。
どちらでもいいように見えるが、
インドの場合は、製造業の広がりに遅れをとったままでここまで来てしまった。
製造業の裾野が広がり、技術開発が進み、部品製造業まで分化していかないと、
国際貿易で、原油を買う金をなかなか賄えない。
インドの主要輸出品はなお、
西欧向けの宝飾品、衣料品、工芸品などの
手工業製品の域を出ていない。
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インドの主要輸出品は何か?
JETROの輸出入統計を見ると、3大輸出品は、①原油・石油製品、
②宝石・宝飾品、③農水産品となる。
3品目で、全輸出の半分近くの47.4%を占めている(2012年)。
インドは、原油消費の8割を輸入に頼り、
原油・石油製品が総輸入金額の3分の一以上を占める
原油輸入依存国である。
原油輸入国なのに、原油・石油製品が輸出のトップというのは
おかしく見えるが、原油・石油製品輸入(全輸入の35%を占めトップ)の
3分の一弱を加工再輸出しているという形だ。
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宝石・宝飾品が輸出第2位にあるのも、原油・石油製品に似ている。
インドは、世界トップ級の金の輸入国だ。
インフレ対策としての金の需要は歴史的に高い。
真珠・貴石と合わせると、金・宝石は輸入全体の16%ほどになる。
宝石・宝飾品の輸出額427億ドルは、
金や真珠の輸入額756億ドルの半分強になる。
宝石・宝飾品類もネットでは輸入品が上回る。
こう見てみると、実質的なトップの輸出品は
農水産物(シェア14.3%、2012年)となろう。
工業製品ではない。
インドはなお綿花やコメを主力輸出農産物とする
農業品輸出国である。
工業製品輸出は、「輸送用機器」、「機械」、「医薬品」、「既製服」が
トップ品目となるが、4品目合計の輸出品シェアはなお21%に過ぎない。
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工業化の遅れた国インドは、輸出入バランスの均衡化のため、
また国内雇用の拡大のためにも、工業化が大きな目標である。
そしてそのための資本は、外国に仰ぎたい。
従って、FDI(外国からの直接投資)が一番重要になる。
しかし、これが進まないところに今日のインドのジレンマがある。
インドへのFDIは、2011~12年度の466億ドルから、
2012~13年度には、369億ドルに下落してしまった。
この2012年度は、インドが歴史上初めて、資本流入よりも資本流出がまさる
「資本輸出超過」の年になってしまった。
国内への外国資本投資が進まない一方で、
海外へ出て行くインド資本は増えたからである。
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インドへの外国資本投資が進まないのには、政治の責任が大きい。
一般的な役所のレッドテープ(許認可の遅れ)だけでなく、
インドに根付いている反進歩主義的な面も見逃せない。
インドは鉱物資源に富むが、
たとえば昨2013年8月、
東部オリッサ州でボーキサイト鉱石の開発に乗り出した
英国のベダンタ・リソースィズ社は、開発を断念した。
‘聖なる丘’を掘ることに地元民が反対し、
地元の議会は禁止し、中央政府の環境大臣も許可を
出さなかったためだ。
同月には、その前に、
ルクセンブルグに籍を置く鉄鋼世界最大手のアルセロール・ミッタルが
オリッサでの120億ドルの鉄鋼プラントの建設をキャンセルしたし、
韓国のポスコも、バンガロールのあるカルナタカ州での53億ドルの
鉄鋼プラント建設をあきらめた。
いずれも、主に、土地収用を巡る反対からだと言われる。
インドの土地収用法は、120年前のものがなお変えられていない。
世界的に供給過多気味の世界の鉄鋼業としては、
人口が多く、これから経済が伸びるインドは格好の立地のはずだが、
経済合理性だけでは、まだ進まないようだ。
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外国資本の投資が進まないのは、製造業だけではない。
流通業では、米国のウォルマートが、インド政府の流通業開放に
乗って、地元企業と組み1億ドル投入したが、
政府の流通業開放政策が進まず、
地元企業は、獲得した立地のうち17箇所を元のオーナーに返した。
「挫折したインドの外資スーパー・チェーンの導入 2011-12-11」
http://uccih.exblog.jp/15093829/
保険業では、外国資本の割合の制限を26%から49%に広げる
という方向が進まず、インドでオンライン保険会社を立ち上げていた
米国のバークシャー・ハサウェイ(ウォーレン・バフェットの投資会社だが、
傘下に保険会社を持つ)は、これをクローズすることにした。
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それでも、インドへの外国資本投資は、1990年代には進んだのだから、
ここ何年かの停滞の政治の責任は、やはり大きいのだろう。
次回最終回その5では、
今回の総選挙に際しての、国民会議派とBJP(インド人民党)の
政策、主に経済政策の違いを見て、選挙後のインド経済を
展望しておこう。