現状について見てみよう。
タイの民間銀行を中心とする金融制度は、
比較的安定している。
タイへの外国投資が増えてきた一因にもなっている。
1997年のバーツ危機で不良債権に覆われた
商業銀行は、その後回復するとともに
リスク管理に努め、近年では毎年増益を
重ねてきた(もっとも2014年第1四半期は、
貸し出しが伸び悩み、減益のところが多いが・・)。
「タイの銀行の預金保護が縮小する 2011-1-3」
http://uccih.exblog.jp/12625423/
2013年以降の景況の鈍化とともに、
不良債権(NPL)が増えてはいるが、
それでも、民間銀行平均で、2014年2月末現在で、
全ローン残高に占めるNPLの比率は、2.3%と言われる。
幸い、不良債権10%超の‘危険水域’には
達していないようだ。
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問題はむしろ、
「特別金融機関」(SFI)とこちらで呼ばれる
国営金融機関の健全性にありそうだ
(タイの商業銀行にも政府出資のものがあるが、
こちらは、中央銀行の比較的厳しい規制下にある)。
タイでは、ここまで8つのSFI、国営金融機関が設立されている。
国営銀行は、中央銀行ではなく、財務省の監督下にある。
比較的古いものは以下の3行:
①1946年設立の「政府貯蓄銀行」(GSB)。
主に都市の中低所得者向けの融資を行なっている。
②1953年設立の「政府住宅銀行」(GHB)
住宅金融を担っている。
③1966年設立の「農業農協銀行」(BAAC)
今回のコメ騒動でクローズアップされた、農村向けの金融機関。
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90年代に設立されたものが3機関:
④1991年設立の「小規模事業信用保証公社」(SICGC)。
⑤1993年設立の「タイ輸出入銀行」(EXIM Bank)
⑥1997年設立の「セカンド・モーゲージ公社」(SMC)。
そして、バーツ危機後に設立され、今、経営内容を問われている2行:
⑦2002年設立の「タイ中小企業開発銀行」(SME Bank)
その名の通り中小企業向けの融資機関だが、不良債権が増えている。
⑧同じく2002年設立の「タイ・イスラム銀行」(I-Bank)
南部のムスリム向けの融資機関、
マレーシアとの話し合いの中で設立された。
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8つのSFI(国営金融機関)を合わせた2014年2月末のNPLの
比率は5.3%と、民間銀行の倍以上の高さになっている。
しかも、財務省の緩い定義での比率である。
中央銀行の厳しいNFLの定義にするともっと高くなる。
ことに、「SMEバンク」の不良債権は、昨年すでに390億バーツに乗り、
NPL比率は40%に迫った。
「I-バンク」のそれも250億バーツ、23%となっている(中央銀行の
厳しいNFLの定義で見ると385億バーツ、34%となる)。
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国営銀行は、民間銀行になかなか貸してもらえない
中小企業や低所得者への融資が多いため、不良債権が
増えがちである。
弱者救済を旨にしていることに加え、商業銀行が中央銀行の
厳しい積立基準で規制されているのに対し、
SFIの監督は財務省で、その規制は中央銀行よりも緩い。
またその分、経営陣も緩いといわれる。
中央銀行は、民間銀行の3ヶ月以上の返済滞納を100%NPLに
組み入れさせているのに対し、財務省は国営金融機関の3ヶ月~12ヶ月の
返済未払いに対しては、20~50%だけNFLに入れさせている。
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とはいえ、経営の脆弱さは、預金に跳ね返ってくる。
イスラム銀行では、2013年2月、2週間で50億バーツにのぼる
預金引き出し騒ぎが起こっている。
タイの財務省は、融資保証会社を軸に、
貸し出しの保証を増やそうとしているが、
下手をすると、いっそう不良債権が膨らむだけである。
戦後70年近くにある国営金融機関の構造変えが要求される。
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1997年のバーツ危機直後の1998年には13%しかなかった
国営金融機関の全貸出に占めるシェアは、2013年半ばには
全体の3分の一、33%にまで拡大してきている。
タイの法人・個人の借り入れ増に歩調を合わせた動きだろう。
タイの中小企業の35%は、民間銀行から借り入れられているが、
60%は、金融機関から借り入れられない。
中間の5%を今のところ賄っているのが国営金融機関だ。
このままだと、国営金融機関のシェアはなお伸びる余地がありそうだ。
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比較的安定しているタイの金融制度ではあるが、
国営金融機関の行方には注意が必要だ。
次回、「タイの借入増」の最終回に見る公的借入の
増加にもつながる話だ。
(最終回へ続く)