プラユット陸軍司令官率いる軍政権に
なってから、2ヶ月になる。
軍政権の施策は、問題の多かったタイ貢献党政権を
おおかた覆すものだが、その打つ手の速さと
具体的な説明で出だしの評判は上々である。
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以下のような地元の新聞に載ったチェンマイ市内における
市民団体の軍に対する物価引き下げの嘆願書の文章は、
軍を持ち上げているが、市民の軍に対する気持ちを表していよう
(チャ~オ紙の翻訳を引用)。
ちなみに、タイ貢献党政権下での最低賃金大幅引き上げや、
自動車購入奨励策、コメ高値買い取り政策など
いろいろなポピュリスト政策で、街の諸物価はずいぶん上がってしまった。
「食用油や電気ガスが高くなりました。
投資家や悪徳政治家などの特権階級をはじめ、
彼等とのコネを利用して甘い汁を吸っている者たちへメスを入れる
ことを軍政に期待しています。
軍政に変わってから、深夜の騒音が減り、街の治安も良くなりました。
軍は意思決定のスピードが速く、我々市民の要求に耳を傾けてくれます。
これからも前政権が放置してきた諸問題の解決に取り組んでいって
ほしいです」。
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比較的明確に、諸懸案の是非を出してきている軍政権だが、
前政権でアドバルーンだけ大きく上げ、ストップしてしまった
「インフラ2兆バーツ大プロジェクト」の今後については、
報道を見る限り、ある程度の方向性は出てきたが、その
全体像と規模については、なお明確ではない。
前政権が打ち上げた、高速鉄道(新幹線)網を中心に、
7年間で2兆バーツ(6兆円)にのぼる大インフラ・プロジェクトと、
2011年のバンコク大洪水対策としての
3500億バーツ(1.1兆円)の支出プラン、
合わせて2兆3500億バーツのプロジェクトはほぼ手付かずのままである。
これは、公共投資の伸び悩みとなって、景気にも影響している。
「タイは過去にない大インフラ投資の時代を迎えるのか 2012-10-20」
http://uccih.exblog.jp/17024162/
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軍政権は全プロジェクトの見直しを、政権発足後、
運輸省はじめ関係官庁に命じた。
そして1ヶ月ほどした6月下旬になって、
①新幹線網建設の経済性などの見直し、
②洪水対策プランのずさんさの修正を、命じた。
つまり全2兆バーツプロジェクトの4割(7800億バーツ、
約2.5兆円)を占め大金のかかる新幹線網が今のタイに
本当に必要なのか、再度検討することとなった。
「タイの国家プロジェクトの中身は? 2013-5-28」
http://uccih.exblog.jp/18866415/
また、洪水対策は、土地収用などに関し地元の反対も多く、
これも作り直す方向となった。
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洪水対策については、前政権の怠慢さが問われるかもしれない。
大洪水の起こったのは、2011年10月。
その後、各地の工場団地などが水没した。
「タイ政府の洪水対策の進捗状況は? 2012-2-24」
http://uccih.exblog.jp/15477797/
政府は、外国資本がタイを離れてしまうことを恐れ、
早々に洪水対策を打つと言ったが、1年後の雨季の盛り
までにやったのは、川の土手の盛り上げや工場団地の
壁を高くすることぐらいだった。
3500億バーツの総合洪水対策は
ほぼ手付かずで、2年半が過ぎてしまった。
幸いここ2年の雨季には大雨はなかったが・・。
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2013年5月には、チェンマイに37カ国2,000人の政治家を集めて、
「第2回アジア太平洋ウォーター・サミット」を開き、
当時のプロトプラソップ副首相は、メンラーイ王(13世紀にチェンマイを建立
したランナーの王)時代の衣装を着て、チェンマイのお堀のごとく
水資源開発を説いたが、反対する環境保護運動家たちを‘くず’と呼び、
逆効果となってしまった。
この会議の後、韓国の国営の水資源会社(Kウォーター)に
1,630億バーツにのぼる開発契約が与えられた。
2011年11月に国外にいるタクシンが賓客として、
韓国のこの会社に迎えられている。
しかし、この後、この会社の財務状況の悪さが明らかになり
水資源開発プロジェクトへの反対はいっそう強まってしまった。
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タイの新幹線計画は、フィージビリティー・スタディに詳細なものがなく、
その経済性がどうのとすったもんだの挙句、憲法裁判所から
次期の政府に負担をかける借り入れの方法は違法との判決が出て、
途絶えてしまった。
「進まないタイのインフラ大投資計画 2014-3-5」
http://uccih.exblog.jp/20427703/
軍事政権は、いま現在における
高速鉄道の必要性を認めていないように見える。
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むしろ鉄道建設で、今後優先的に進められるのは、
複線鉄道への拡張と、在来線のメンテ、修復、首都大量輸送網
の増強になりそうだ。
これだけでも、7年間で2,500億バーツ(7,900億円ほど)見込まれる。
タイは、車優先で、鉄道利用は少ない。
国鉄は赤字で、国有鉄道の路線は老朽化してきている。
これへのてこ入れは必要だろう。
「脱線事故が頻発するタイの国有鉄道 2013-9-27」
http://uccih.exblog.jp/19726639/
バンコクのMRT(地下鉄中心の大量輸送機関)は、
現在のブルー・ライン(延伸工事中)に加え、
グリーン・ラインとパープル・ラインが建設中だが、
これらに加え、オレンジ、ピンク、イエローの3路線が計画されている。
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道路建設、道路拡張は、今後の公共投資の中心になろう。
道路関係の支出は、3,900億バーツ(1.2兆円)ほどと見込まれていたが、
このうち4分の3の2,900億バーツほどは、4車線拡張工事として
優先されそうだ。
「タイの公共投資、最優先は4車線道路拡張 2014-4-24」
http://uccih.exblog.jp/20613902/
また、バンコクから東北地方の玄関ナコン・ラチャシマへの
196kmの新たな高速道路などの道路作りも入ってきそうだ。
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道路、鉄道在来線を優先し、新幹線は当面見送るという
ほぼまっとうな方向が、軍政権下で出てきそうだ。
洪水対策は見直しを行ない、その後手が打たれよう。
しかし、プロジェクトの規模全体で見ると、
縮小よりも、見直しに乗じての運輸省などからの提案も多く、
全体の規模がむしろ膨らむ可能性を秘めている。
2兆バーツから新幹線の7,800億バーツが削られるとすると、
1兆2,200億バーツとなる。
しかし、省庁からの全体の要望は3兆バーツほどに膨らんだ。
これを軍政権は2兆4千億バーツに抑えると言われる。
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しかし、それでも、前政権の新幹線を除いた1兆2,200億バーツから
見ると、倍近くに膨れる計算になる。
空港、港湾の拡張、建設に力を入れるようだが、
それでも以前の空港・港湾関係の550億バーツが桁違いに
膨れようもないだろう。
まあ、タイのことだから、数字は後からついてくることになるのか。
タイの公共投資は、どうやら2015年度9月期から緒に就きそうだが、
その規模がどうなるのか、今のところ不明である。
私も、家庭教師の先生からタクシン政権の不透明性、蓄財は聞いていましたので、現軍事政権のままでも良いかなとは考えています。
ただ、クアラルンプールからチェンマイへの飛行機で、タイ領内に入ってから、どこまでも続く山林地帯、所々に見える農村、彼らがタイの多数派である事を考えると、この問題の難しさを感じます。
鄧小平の「先に富める者が、富む・・・」理論からすると、新幹線等のインフラへの国家投資にも意味があるかと、一瞬考えますが、中国の現状を見ると、後に続くものは少なく、富んだものがより富んでいくのが現実です。
定休日も無く、毎日、朝から晩まで、美味しいクイテイアオを作り続ける、タイの庶民達、親切で勤勉ですが、一方で、進取の気勢、企画・計画力に欠けているのも事実です。
明治以降の日本の奇跡的な成長の基盤は、やはり師範学校が生み出した、優秀な教師群、義務教育システムにあったかと考えています。
タイの成長・政治の安定には、工場労働者、サービス産業などの中間層の拡大しかありませんが、そのためにも農村地区の教育インフラ
への投資も大事かと考えます。