ウクライナを巡って、欧米と対立を深め、
経済制裁を食い、それでなくても原油価格下落で
苦しくなっている経済に痛手を負い、
通貨ルーブルの価値は大きく下落している。
こういった苦しい状況にある今のロシアは、
かつてのソビエト領であり、ソ連崩壊後も今なお維持されている
「CIS」(独立国家共同体)の国々であり‘ロシアの裏庭’と
目される「中央アジア5カ国」との絆を、より堅固にしたいところだ。
ロシアは、2000年に中央アジア諸国とベラルーシを含め、
「ユーラシア経済共同体」を創設した。
2010年には、ロシア、ベラルーシ、カザフスタンの間で
「関税同盟」が結ばれた。
2011年にプーチンは、「ユーラシア連合」の創設を提案するなど、
中央アジア諸国との結合を強めたがっている。
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一方、中国は、西方に動乱の発生しやすい
「新疆(シンジアン)ウイグル自治区」を持っている。
中央アジアは、昔からトルキスタン(テュルク族の住む土地)と
呼ばれ、天山山脈・パミール高原を境に、
東トルキスタンと西トルキスタンに分かれていた。
西トルキスタンが、今の中央アジア5カ国だが、
東トルキスタンが“ウイグルスタン”だ。
この地が戦後中国の支配下に入っている「新疆ウイグル自治区」である。
日本の4.4倍の国土面積を持ち、2000万人の人口を持つ
この自治区の住民の半分ほどは、
なお、イスラム教徒であるウイグル族である。
中国からの自治独立を求めて、争乱が絶えない。
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そして、東シナ海、南シナ海といった
東方の海域での勢力拡張には、覇権国アメリカが
立ちふさがるので、中国としては、西方への進出を
図りたいところだ。
事実、中国は、中央アジアとの交易を高めている。
ハワイに本拠を多く研究機関「パシフィック・フォーラムCSIS」によると、
2012年の中国の中央アジアとの貿易額は460億ドルに達し、
ロシアと中央アジアの貿易額の倍になっている。
中国の中央アジア諸国に対する投資活動はいっそう積極的だ。
シー・ジンピン(習近平)主席は、
「新シルクロード経済ベルト」を目指している。
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中国は、カザフスタンとは300億ドル、
ウズベキスタンとは150億ドル(31件)にのぼる投資契約を結び、
トルクメニスタンとは、2013年に160億ドルの天然ガス
取引の契約を結んでいる。
中国カザフスタン間の石油パイプラインは
2006年に完成している。
カザフスタンのカスピ海北方に中国が所有する
油田から新疆まで、全長1000キロ近く石油を運んできている。
また、世界第4位の天然ガス埋蔵量を誇るカザフスタンに対しては、
80億ドルの資金援助を行なっている。
タジキスタンは、アンチモンの生産では世界第4位だが、
貧しくロシアへの出稼ぎで稼いでいる国だ。
中国は、ここに対しても10億ドル以上の資金を供給している。
また2013年、キルギスとの関係を戦略的水準にまで
高めており、国内にウイグルの火種を抱える中国は、
経済的にも地政学的戦略からも、西方への進出を図っている。
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東方の海でアメリカや日本と対立し、西方の新疆ウイグルで
イスラム強硬派と対決する中国。
前庭のウクライナで西欧と対立し、裏庭との絆を強めたいロシア。
米国主導の国連では、常任理事国として、シリアや北朝鮮の
制裁案には、仲良く拒否権を発動して、国連の実行力を
削いでしまえる両国。
現状のもとでは、いっそうアプローチを強めている。
「2034年第3次世界大戦勃発のシナリオ 2014-9-3」
http://uccih.exblog.jp/21077700/
しかし、中国とロシアは、同じベッドに入っても
片目を開けて眠る仲と言われる。同床異夢でもある。
便宜的同盟とも言われる。ロシアも、経済大国になりつつある
中国へのエネルギーと武器の単なる供給国になりたくはない。
ことに、両国とも中央アジアへの進出を強めるとなると、
協力よりも対立が増えてきそうだと見られる。
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ロシアと中国は、2014年5月に、両国の石油公社を通じて、
30年間4千億ドル(約45兆円)にのぼる天然ガスの
供給契約を結んだ。
中国沿岸沿いに建設する新しいパイプラインを経由して、
シベリアの天然ガスを中国に供給する。
もっともこの件は、価格なども詰まっていないようで、
ロシアが中国との緊密な関係を見せ付ける政治的アドバルーン
でしかないとも見られているが。
ロシアからの中国への武器輸出は近年減っているが、
経済開発協力は進んでいる。
しかし、前述した中国・カザフスタン石油パイプラインの敷設は
ロシアのこの地での石油支配・コントロールに対して
脅威となってきている。
中国が中央アジアの資源開発に乗り出してくることで、
中央アジア諸国の石油・エネルギー開発が進み、
ロシア自国の石油輸出への脅威となってくるからだ。
ロシアは、自国産原油に質のいいカザフスタン原油を
ブレンドして、品質・価格を維持しているのが現状だ。
中央アジアの開発が進むに連れて、
ロシアと中国は接近しつつも、対立する場面が増えてくるかもしれない。
国際関係の地政学は、一筋縄ではいかないものだ。