見送りを受けるのはうれしいものです。
「心を残している」という、日本の奥ゆかしい習慣です。
タイには、見送るという習慣がありません。
人を家まで送っていってもさっさと
ドアの方へ行っちゃいますし、こちらが辞去する時でも
あまり見送られません。
タイ人はあまり過去を振り返らない人たちなのです。
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過去は忘れる、過去にこだわらないという生き方は
生活のいろいろな場面で見られます。
典型的なのが人が亡くなった時かと思われます。
葬式はにぎやかに行なわれますが、
葬儀が済むと亡くなった人のことは心から外します。
過去の人にはあまり思い入れをしなくなります。
タイ人にはお墓はありません。
タイにある数少ないお墓は、華人のものです。
火葬ですが、灰はなるべく家から離れた地に散らします。
家のそばだと、“ピー”(お化け)になってさまよってくるからと
タイ人は嫌います。
もちろん、愛する家族の遺影の写真は、
家の仏様の脇においてありますが。
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過去を忘れる、過去にこだわらないという姿勢は、
社会全般の雰囲気にもなっています。
タイ語で有名な「マイペンライ」という言葉があります。
この「気にしない、かまいません」という意味の言葉は、
単に不始末をした人や、迷惑をかけた人だけに
向けられるものではありません。
迷惑を受けた人や被害を受けた人に対してもマイペンライ、
加害者も被害者も含めてのマイペンライなのです。
ウエイターが客の洋服に水をかけて、「マイペンライ」と言うのは、
主客転倒ではないのです。
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マイペンライの意味は、英語で言えば、
“Forgive & Forget”(許して、忘れる)になります。
この英語は語呂がいいのでタイ人のインテリはよく使います。
2011年にバンコクで大洪水があり、日本の工場も
大きな被害にあいました。
しかし、身近なものは手当てされましたが、抜本的な
インフラ構築は手付かずでした。
根底には、「まあしかたがない面がある。過去は忘れて
今後に取り組もう」というForgive & Forgetの精神がありました。
2013年12月バンコクでデモ隊の騒ぎになっている元の
「恩赦法案」もそうです。
タクシン派政府の推すこの法案は、過去十年ほどの間の
政治的な犯罪容疑をみなチャラにして、ゼロからスタート
しようというものです。
これには、2011年のデモの犠牲者にすまないと、
反タクシン派だけでなく、タクシン支持の赤シャツ隊幹部からも
抗議が出ていました。
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過去は忘れて現在の生活を重んじようという
仕方は、いい面も悪い面もありますね。
原因の究明や効果的な対策がおろそかにされたり、
過去の罪が問われず許されてしまうのは、悪い側面でしょう。
良い面は、過去にこだわらず、前向きに生きる姿勢です。
ゴルフのゲームなどが典型でしょう。
過去の失敗を引きずっては良いプレーも出来ないでしょう。
人生、心の切り替えが必要な局面も多く出てきますね。