ベトナムが通貨ドンの対米ドル8.5%の切り下げを行なった。
ここ2年半で4度目の‘参考レート’の切り下げである。
この結果、公定レート(参考レート)は、1ドル=18,932ドンから、1ドル=20,693ドンとなった。
以前お伝えしたように、高インフレで自国通貨の保有が嫌われるベトナムにおいて、
アジアの中では珍しく、ドルに対して通貨価値が下がっているのだ。
2010-12-24
これは公定レートであり、市中ではこれより10%ほどドルが高いレートで
取引されている。1ドル=21,500ドンのごとくである。街の両替屋へ行けば、
もっといいレートでドンを手に入れられるかもしれない。
2008年以降、ベトナムの通貨切り下げは、これで4回目、トータルで20%以上の
切り下げとなったが、今回は一番大きな切り下げとなった。
ベトナムは、高インフレ、大きな貿易赤字、外貨準備減少といった問題を抱えている。
昨年は、6.8%という高い経済成長だったが、
年間のインフレ率は、11.8%と2桁となり、主要国の中ではパキスタンを除き、
一番高かった。しかも今年1月は前年同月比12.2%となお上昇気味だ。
昨年の貿易赤字は、132億ドルに達した。
ベトナムのこの為替政策は奏功するか疑わしい。
タイのコメ業者は、このベトナムの為替切り下げによって、今でも、トン当たり
ベトナム440ドル、タイ520ドルの価格差がさらに開き、世界トップ(年間9百万トン)の
米輸出国の地位を、第2位(年間7百万トン)のベトナムに奪われるのではないかと
心配している。
しかし、ことはそう単純にも行かないだろう。
為替切り下げは、ベトナムの輸入原油の価格を一層高くし、その他の輸入品の
価格アップも招き、インフレを一層加速しかねない。
ベトナムの輸出業者は、為替切り下げで、ドル建て販売価格を変えずに
為替差益を得るより、コストアップ分をドル価格に上乗せして、ドンでの収益確保を
はかるのが中心となるだろう。
この為替切り下げだけで、輸出が伸びて、輸入が抑えられ、貿易収支が改善し、
通貨ドンへの回復が回復するなど、単純には行かない。
むしろ、手先が器用で、衣料品の品質など高いベトナムのこと、
品質やサービス・スピードなど非価格競争で、アジアで十分闘っていけるはずだ。
為替切り下げだけで、事がうまく行くなら、ベトナムは一昨年来うまくいっているはずだ。
為替政策は、他の金融政策、財政政策などとの組み合わせがなければ、
それだけで功を奏するほど、世の中甘くはない。
ベトナムの問題は、共産政権が、なお経済成長優先の姿勢を変えていないことだ。
経済は病んでいるのに、これを根本から治そうとせず、なお病人を走り続けさせる
ようなものだ。
先月の5年に一度の「代表者総会」でも、2011~2015年の7-7.5%の成長目標が
採択された。予想以上だった昨年の6.8%を上回る高い目標である。
その証拠がある。
1月の前月比+1.7%(前年比+12.2%)といった高いインフレ率が発表されたあと、
今月はじめ、中央銀行総裁は、2月のCPIの伸びが、前月比1%未満(1.4%以下とも伝えられる)なら、金利を下げさせられると言っている。
政策金利は11月に9%に引き上げられたものの、2桁のインフレ率にすでに追い抜かれている。
インフレ対策として、一層の金融引き締めが必要な時期に、中央銀行は、
金利引下げの機会をうかがっているのだ。
市中の貸出し金利が15.3%と高く、企業の借り入れを阻害しているので、
14%以下に誘導してやり、経済を拡大したいとの思いがあるようだ。
高インフレ、貿易赤字、さらには国営企業の不調という苦境の中で、
ベトナム政権は、国営企業の失敗に責任のあるトップを変えることなく、なお高い経済成長を目指し、経済政策も整合性を欠くというカラ回りに陥っているようだ。
インフレ率が20%まで行き、貸し出し金利も20%を超えて行き、
経済拡大にいやおうなしにブレーキがかかるまで、この国の
経済更正は見られないかもしれない。