少数民族への政府軍のここへ来ての弾圧に加え、ビルマの抱えるもうひとつの
課題は、政治犯の釈放である。
革新的なテイン・セイン大統領だが、政治犯の問題についてだけは、
以前の軍事政権のトップと言うことは変わっていない。
「ビルマには良心の囚人(政治犯など)は居ないと信じている」と
なお言っている。
これは、明らかな政治的いつわりの発言である。
10月12日に政治犯200人ほどを含む6000人を超す囚人が
恩赦で釈放されたが、その後11月にも釈放のうわさが立ったが
釈放はなかった。なお500人から1900人ほどの政治犯が牢獄の中に居ると
見られる。
ビルマにおける政治犯の釈放は、過去何度か行なわれてきている
(政府は、政治犯の釈放とは言わないが・・)。
1992年タン・シュエ将軍(今は78歳)が国家元首・首相の座に就いた時は、
数千人の釈放令を出したし、2004年キン・ニュン首相が失脚した後も、
数千人の政治犯を釈放している。
言い方は悪いが、多くの政治犯をしょっ引いて、その後
釈放すれば、釈放の実績はいやでも増える。
実際、逮捕→釈放→再逮捕といった形も多い。
今回のクリントン国務長官の来訪にあたって、ビルマ政府は
何人かの政治犯を釈放し、民主化路線を印象づかせようとするかも
知れないが、なお現政権と厳しく対立する政治犯は釈放しないと見られる。
2週間ほど前に、最も名の知られているふたりの政治犯、
ミン・コ・ナイン(政治家と言うより詩人)とクン・トゥン・ウー(シャン州出身の
政治家)等が、居場所を移されたと、チェンマイ在住のイラワジ誌編集長の
アウン・ザオ氏は伝えている。
例えば、影響の少ないミン・コ・ナインを釈放して、政治的影響力の強い
コ・コ・ジー(88年学生反乱の時のリーダー)はとどめるといった形が
考えられるという。
アメリカも楽観的には見ていない。
1988年のデモ鎮圧以来続いている経済支援の停止、経済制裁の
執行を、国務長官の50年ぶりの訪問だから、すぐさま取り止めると
いうつもりはないようだ。
クリントンは言っている。
「我々は経済制裁を取り止めるなど、急な変更を行なうつもりはない。
もう少し、事実を確かめる必要がある」と。
ビルマを何回か訪れている、かつての大統領候補の米国上院議員
ジョン・ケリーも、「なお言葉より、行動に重みがある。ビルマ政府は、
無条件ですべての政治犯を釈放し、国境沿いでの残虐行為をやめさせる
必要がある」と述べている。
ビルマ新政権のいろいろな口約束をそのまま受け止めてはいない。
アメリカにとって、ビルマは東南アジアの重要な一国という以上に、
豊かな鉱物資源を持ち、北朝鮮との核開発の疑惑を抱え、
さらに中国との緊密な関係という点から、戦略的にもほうっておけない
国になっている。
クリントンの訪問を控えて、中国も動いている。
フー・チンタオ(胡錦濤)主席の後任者(2013年予定)と目される
シー・ジンピン(習近平)副主席は、11月28日、北京で
ビルマの軍のトップ、ミン・アウン・ライン最高司令官と会って、
「我々の従来からの絆を変わりなく強めよう。戦略的な協力を
惜しまない」と、米国の接近に対して、ビルマ軍を押さえにかかっている。
オバマ大統領は、クリントン国務長官を送り出すに当たって言っている。
「ここまでビルマの進歩へのフリッカー(明かりの点滅)を見てきている。
進歩は進歩で、歓迎すべきだ。しかし、フリッカーだけでは、改革への
道に乗ったかどうか判断するには不十分だ。まだだ!」と。
12月1日からのクリントン訪問は、ポップスター並みの人気で扱われるだろう。
ビルマ政権が、クリントンの問いかけに十分答えられるだけの準備が
できているだろうか。おそらく、まだだろう。
滞在中はお世話になりました。もっと安定したスイングに改良して出直します・・・