ラオス国境のプーチーファーの断崖に登ったついでに、
チェンコーンからチェンセーン(ゴールデン・トライアングル)まで、
メコン川沿いに走って、チェンラーイに戻った。
臨む大河メコン川は、中国のダムの影響か、雨季明け間もないのに
心なしか、水量が少ないように見えた。
メコン川は、チベット高原の高さ5000mの地を水源に、
中国雲南省、ラオス、ビルマ、タイ、カンボジアを通り、
ベトナムのメコン・デルタに抜けるインドシナきっての
延長4000kmの大河である。
ここで今、ラオスが建設を目指す「サヤブリ・ダム」の賛否を巡って、
国際的にもめている。
資源に乏しい山国ラオスは、水力発電が主要な輸出品だが、
下メコン(ラオス・ビルマ以南)に、35億ドルをかけて、発電量1260メガワットの
サヤブリ・ダムを建設する準備にすでに入っている。
サヤブリが通れば、さらに10のダムを作る予定だと言われる。
なお、上メコン(中国)には、すでに1996年に建設された
漫湾ダム(発電量1500mw)など3つの中国のメコン本流上のダムが作られ、
なお12のダムが計画されているといい、下流の国々を
心配させている。こちらは規制できないのか。
メコン川でのダムの環境問題としては、以下の点が懸念されている。
①水量が減ることにより、カンボジアのトンレサップ湖やベトナムの
穀倉メコン・デルタへ十分な水が行かない時期が出ること。
流域住民6千万人の生活にかかわる問題である。
また川の汚染の問題もある。
ベトナムは、はやくから反対している。
②メコン川には1200種の魚類が生息し、120の魚が流域住民の
主要な蛋白源になっている(チェンコーンで食べたメコン川の
魚は、うまかったなあ)。中国のダム建設で見られたように、水位の
低下により、漁獲量のいっそうの低下が心配される。
また、メコン川を多くの魚が産卵のためにプノンペンあたりまで
遡ってくるが、これも難しくなる可能性があると言われる。
メコン川は魚類、爬虫類、哺乳類の宝庫だが、乱獲で減った
「メコン大ナマズ」や「メコンイルカ」は絶滅の危機にあるといわれる。
メコン流域の環境・発展を守るために、古く1957年から
「MRC」(メコン川委員会)が、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムの
関係4カ国の政府間協議機関として存在する。
強制力はないが、1995年の取り決めで、4カ国の合意で物事を
進めようという政府間委員会となっている。
2010年には、委員会の委嘱を受けた2つの調査機関から
「11のダム建設は、深刻で非可逆的な環境破壊を生み出すおそれがあり、
10年は延期し、いっそう調査することが望ましい」との結論を得たが、
その後、MRCは、「このレポートは公式のものではない」と跳ね除けている。
2011年になって、「USAID」(米国国際開発局)は、ポートランド州立大学に
研究を依頼したが、「この計画はコストが便益をはるかに上回り、
2470億ドルのマイナスが出る」と結論付けられた。
今年も4月にサヤブリ・ダム建設の是非を巡ってMRCで協議されたが、
“より調査が必要”との結論で、賛成は先送りされた。
しかしその後、ラオスは、5月に、スイスのポイリー・エナジー社を雇い、
「ダム建設は進めるべきだ。ネガティブな影響は、建設後でも
修復可能だ」との結論を出させ、推進しようとした
(このレポートは、グリーンウオッシュ、環境配慮のごまかしとして、
退けられたが・・)。
そして、この12月7(水)~9日(金)の3日間、
カンボジアのシェム・リアップで再びMRCが持たれた。
結論は、今回もなお調査が必要とのことで、承認は持ち越された。
環境保護団体やベトナムが望んでいる「10年間延期」までは
いたらなかった。
しかし、すでに準備に入っているラオスは、委員会に強制力はないので
建設を進めるかもしれない。
ポイントは、タイの出方である。
タイの「EGAT」(タイ発電公社)が、このダムの発電量の95%を
買うことを6月にサインしており、ダムの建設はタイの会社が、
資金はタイの銀行が融資することになっているからだ。
タイは、そういう関係だから、基本OKの立場で来た。
タイの流域8地域のグループは、そもそもこのタイ側の決定が、
公聴会なしに閣議の承認だけで決定された(時の政府は民主党)と、
建設の中止を求めている。
今から住民の声を聞く公聴会を開けと圧力をかけている。
タイのインラック政権が今後どう出るか、注目される。
守って欲しいなあ、メコン川の生態系。