経済の発展とともに、いやそれを上回るペースで、
借金、クレジットは拡大している。
タイ全体の民間の信用(企業が7割で個人が3割)の伸びは、
2011年は14.9%も伸びている。
タイ第2位の銀行、KTB(クルンタイ銀行)を例に取ると、
消費者ローンの残高は、2012年第1四半期で、
87.3億バーツ(前年末比+2.3%)伸びている。
当行のローン全体の残高は、第1四半期末で、1兆4,880億バーツだが、
うち26%(3,870億バーツほど)が、消費者向けローンと見られる。
電力代のアップ、交通費のアップ、全体の物価の上昇に
5月の学校の新年度入りを迎え、消費者ローンの伸びはなお高まりそうだ。
KTBの場合、消費者ローンの申請に対して、承認率は30%と
それでも低い。申請者の借入残高がすでに高くなっているためだ。
KTBは、年収の80%以下の借入残高をローン付与の基準としているが、
すでに80%に達している消費者が多いということになる。
なお、KTBの第1四半期末の焦げ付き率は4.95%と、
昨年末の7%近くからは下がっている。
タイ貢献党政府は、ポピュリスト政策の一環として、
タイの借金漬けの消費者に対する“徳政令”を実施する。
民間銀行からのローンではなく、政府系銀行からのローンに対し、
返済のモラトリアムを、4月24日の閣議で決定した。
4つの政府系銀行からローンを受けている375万人(人口の18人に一人)の
個人(借入残総額4,590億バーツ、円換算で1兆2,500億円ほど)に対して、
450億バーツ(1,250億円)ほどのローン金利の支払い(3%分ほど)が、
2012年9月1日から2015年8月31日までの3年間免除される。
対象となる375万人の77%に当たる290万人は農民だと言われる。
タイの労働力3,850万人の4割を占める1,550万人の農業労働力の
2割近くがモラトリアムの対象ということになる。
450億バーツの負担は、国の予算と政府系銀行で半分ずつ
負うが、要するに税金での負担である。
支払免除されるローン保持者は、優良な借り手とされ、
4月24日現在で、借金が50万バーツ(135万円ほど)に達していない借り手である。
5月2日から8月20日の期間、モラトリアムの登録が受け付けられる。
ただし、個人ローンと言っても、住宅ローン、分割払い、リース・ローンは除かれる。
キティラット財務相は、「これで、経済成長率も0.4~0.7%分高まる」と
言っているが、野党民主党のゴーン副党首は、「民間銀行からローンを
受けている者に対して不公平である。税金を使って、フリーローンを
提供するのが政府の義務なのか」と批判している。
「借金を救済するなら、むしろ銀行から借りられず、不法なローン・シャークに
走らざるをえない消費者を救済すべきではないか?」とも言っている。
タイ政府は、ポピュリスト政策として、よくこの徳政令を出すようだが、
あくまで借金漬けの低所得の農民に対する一時的な対症療法でしかない。
農民の借金の元である過剰な農薬や肥料の購入を抑制させ、
生産コストを下げさせ、反収を上げるとか、
根本治療にはなかなか手をつけられていないようだ。