1年目の運用では、生産米の6~7割しか納付されず、補助金部分の
大きな部分が倉庫業者や大規模農家・地主に偏ってしまっただろう
ことを見た。
しかし、最大の問題は、それらよりも、こうしてコメの国家管理に踏み切った
政府がコメを高値で大量に貯め込んでしまったところにある。
政府としては、高値で買い取ったコメをさらに高値で
売れればよいが、それは不可能だ。何せ市場から乖離した高値
買取りだからだ。これからは、高値で買い取った大量のコメを
いかに国内、輸出向けにさばき、損を少なくするかだ。
時間が立つほど、コメの品質は劣化し、倉庫費用も重なることになる。
通常なら、タイで生産される3150万トンほどのコメ(籾量ベース、11/12年度)は、
自家消費に600万トン近く消費され、残る2550万トンほどが
市場に出てくると推定される。国内市場に1200万トンほど、
そして輸出に1350万トンほど(精米ベースで900万トンほど)が
向かうはずだ。
政府は貯め込んだコメの販売に苦慮することになる。
もちろん販路は、業者に入札させて、国内販売及び輸出となる。
政府自らも外国政府との間でコメ販売契約に努めなければ
ならない状況だ(これが政府の仕事だろうか?)。
従来から見てきているように、コメは貿易流通量の比率は小さく、
必ずしも国際商品とは言い切れない。
政府が膨れる在庫をうまくさばけないと、民間に委託した保管のコストが
嵩むだけでなく、米が古くなり、品質に齟齬をきたす。
政府の言っている「タイ米は品質がすぐれているので、世界中に安く売る
ことはない」という前提が崩れる。
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仮に、政府がやむを得ず(その公算が高いが)、買い取り価格よりも
安い値段で放出すれば、その分が、政府の損、よく言えば、補助金部分となる。
これに保管費用、取り扱い費用が加わる。
政府の税金負担は、買い取り(抵当)価格―(売却価格+諸費用)となる。
国内市場向けは、農家の直接販売も745万トンほどあると推定されるし
(コメ農家の出荷量2550万トン―抵当スキーム納入量1805万トン)、
損を覚悟で(補助金だとして)、1805万トンのうち455万トンほどを
国内市場向けに、業者を通じてさばけばよい。
トン当たり5100バーツの政府負担として、この分は230億バーツほどの
税負担だ。
問題は輸出だ。高値で売れないタイ米をさばくのに、おいそれとはいかない。
現在、世界の国際米相場は、指標となるBグレード白米バンコクFOB価格で、
港までの輸送費用なども含め、トン590ドル(精米ベース)ほどで
比較的安定している
(政府は国際相場の値上がりを待っているが・・)。
政府が、籾トン当たり15000バーツほどで買い取ったとして、倉庫に入れ、
在庫、精米、運送、費用などを加えれば、精米トン当たりでみて、
22500バーツほどの買い取り価格は、24000~25500バーツや
そこらにはなろう。
輸出ドル価格に直して、800~850ドルがコストになるわけだから、
これ以上で売れなければ、採算割れになる。
政府は、外国政府との政府間交渉で、700万トンほどの大量
販売を急いでいるが、高いコストを受け入れて買ってくれる国は
なさそうだ。高値で買うとすれば、中国などが政治的に恩を売るケースだろう。
インドの輸出コストがトン435ドルほど、ベトナムのそれが465ドルほど
と言われるから、せいぜい高くても590ドルほどでしか売れないだろう。
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仮に籾量1350万トン(精米量で900万トン)の8割、
精米720万トンをトン590ドルで輸出できたとしても、
そのコストとの差である税負担額は、
(590-800)ドル*720万トン=15.1億ドル(454億バーツ)という
大きな額になる。輸出分だけで、1年で454億バーツの税負担となる
計算だ。国内販売分の税負担230億バーツと合わせると、
政府の税負担は、684億バーツくらいには膨らむかもしれない。
国民一人当たり1000バーツ強の負担だ
(政府は200億バーツほどだろうと言っているが)。
2012年9月12日、ブーンソン商務相は、「中国やインドネシアなど6カ国と
計733万トンの輸出契約ができた」と発表した。これが本当なら輸出向けの
8割がたが捌ける。ビッグ・ニュースだ。
しかし、その後の経緯だと、輸出契約ではなく、拘束力のない「MOU」(合意書)、
いや「LOI」(意向書)が結ばれたに過ぎないと伝えられている。
本命とされる中国(200万トン?)ですら、
高いタイ米は買えないと、その後匂わせている。
中国のタイ米輸入は、ここ数年、年数十万トンほどで来ている。
実際、2012年の12月現在まで、港から出荷の物理的動きは見られていないという。
2013年末までに出荷すると政府は言っているが、そんなに長く
在庫したら、コメの品質も低下しそうだ。
その3週間ほど前の8月21日に、政府は国内の業者に対し、在庫米75万トンの
第1回目の売却オークションを発表したが、3割の23万トンしか売れなかった。
残り50万トンは、9月19日に再度オークションに出されたが、
これも57000トンしか捌けなかった。
価格が高すぎるので、業者が敬遠したと言われる。
政府のコメ在庫は、籾ベースで1200万トンを超えて来るといわれる。
年が明ければ、2年目のコメが入ってくる。
倉庫が足りないので、ドンムアン空港の空いている軍の格納庫を使う
計画があるが(15.7万トン)、コメ倉庫としての密封度に欠けると同時に、
毎日500台以上のトラックがコメを持ち込んでくると、空港の道路が渋滞し、
空港の機能に障害が出ると懸念される。
10月より2年目に入ったコメ抵当スキーム、
増大するコメ在庫を政府はどう捌いていくのだろうか?
そのうちに、国民にコメをもっと食えとキャンペーンを
起こしてくるかもしれない。