いま、タイの多くの農民は、国に納めたコメに対する代金が
数ヶ月も払ってもらえず、困っている。
批判の多い、問題の多いタイ貢献党のコメ国家管理政策である
「コメ抵当スキーム」は破綻に近づいてきたように見える。
このコメの国家管理プランが、インラック政権が成立した
2011年10月から発足して以来、その推移を追ってきたが、
予想通り、というか予想以上に、ネガティブな結果をもたらしてきた。
単にコメの流通や輸出低下という問題にとどまらず、
農民や関係ビジネスの債務の増加、さらに国の財政問題、
信用問題にまで火がつきそうなところへ近づいてきた。
折りから、選挙が予定されているが、へたをすると、
与党タイ貢献党の命取りにもなりそうな、大きな‘時限爆弾’となっている。
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前回(2013年10月16日)、新年度(2013年10月~2014年9月)入りし、
3年目に入ったコメ国家管理政策の損失縮小計画を見たが
(思い切り縮小することが出来なかった)、
それから、3ヶ月経て、この制度は、「国の代金未払い」という
問題に発展してしまった。
「10月新年度入り、タイのコメ政策は変わったか 2013-10-16」
http://uccih.exblog.jp/19830757/
ここで、この制度のお金の流れをおさらいしておこう。
政府は秘密主義で、在庫量や販売量を公にしないので、
各種の機関からの推定数字によることになる。
過去2年度(2011年10月~2013年9月度)について見ると、
コメの買上げ量は(抵当制度と言っても、実質は国による高値買上げ制度)、
2年間で籾量にして4,300万トン(精米量で2,700万トン)ほどになる見られる。
籾を精米すると、6割強の量になる。
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籾量1トン当たり平均15,800バーツほどの高値(市場の4~5割増し)で
買い上げられたので、政府がコメの買上げに使ったお金は、この代金
6,800億バーツ(2.1兆円)+倉庫その他の運営費用900億バーツ合わせ、
計7,700億バーツ(2.4兆円)という大金になった。
国の年間予算規模が2兆バーツ(6兆円)強の国で、予算規模の2割近くの
大金が年間投じられる。大盤振る舞いである。
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そして、「タイのおコメは世界が欲しがるほどだから、外国にも高値で売れる」と
いう、世界のコメの需給関係(慢性的な供給余剰が数年続いている)を
無視した前提で出発した。
そのため、政府が高値で買い上げたコメは、外国からも足元を見られ、
政府の倉庫に山積みとなって、処分に困る事態となってしまった。
政府の在庫量は、精米量で1,700万トンと言われるが、近く2,000万トンに
届くだろうと見られる。
輸出のほぼ2年分のコメが貯まってしまった。
そして、当然、高値で外国へ売って、売却金を次の年の買取資金に当てるという
政府の思惑が狂ってくる。
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この制度の損失額は、どのくらいに上っているだろうか?
4,300万トンほど(モミ量)買い上げて、半分近くの2,000万トンほど
(国内民間需要+政府による売却)が捌けたようだ。
しかし、市況の水準は低く、籾量トン当たり平均6,700バーツほど
(経費も含めた買取コスト平均17,900バーツの半分以下)ほどと推定されるので、
2年間の損失額は、7,700億バーツ(買取費用)―1,400億バーツ(売却収入)
=6,300億バーツほどとなる。これが実現損の水準だ。
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そして政府の在庫量が、籾量にして2,300万トン(精米量で1,400万トン)ほどは
あると見られるので、
この在庫分の評価は、将来の収入源としてプラスしてやらねばならない。
政府は、在庫を買い取り価格の額で評価したいので、在庫分2,300万トン(モミ量)
については、評価損を認めず、買取価格そのもの、つまり3,600億バーツほどの
価値があると見る。在庫評価込みの2年間の損失額は2,700億バーツ程度
(6,300億―3,600億バーツ)と示唆している。
実際、政府は「年間の損失額は1,000億バーツ程度に過ぎない」と言っている。
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しかし、売却は市場価格でしかできない。
政府間取引と言えども、中国でさえ、市場の倍近い価格で買ってはくれない。
コメの国際価格は、昨年1年で24%ほども下がっている。
かつて、5%精米で、ベトナム米よりトン当たり100ドル以上高かったタイ米も
ベトナム米のトン400ドル近くの価格に鞘寄せしてきてしまった。
さらに、倉庫に積まれた新米は、日に日に古米へと減価していく
(年間で20%減価すると言われる)。
ひいき目に見ても、在庫の価額は2年を経た減価も加味すると、
精米ベースで1,700万トン(1,400万トン+過去の余剰分)在庫があるとしても、
トン当たり、減価も考慮すれば、平均10,000バーツで売れればよい状況だから、
市場価格で見た現在の在庫価額は、1,700億バーツ程度だろう。
政府の見るコスト評価による3,600億バーツの半分程度になる。
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この評価額も、世界のコメ市場に大変化が起こらない限り、
年を経つほど低下していく。政府はもはや大きな損を覚悟で、
売却を急がなければならない状況となってきた。
従って、過去2年間の損失額は、在庫評価を踏まえても、
6,300億バーツ(実現損)―1,700億バーツ(在庫評価額)
=4,600億バーツといった規模になっているだろう。
この先、世界のコメ余剰が続き、高いタイの古米がなお売れないとすると、
損失額は、なお拡大していく。
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コメ代金が払えなくなったのは、損益の問題ではなく、
金繰りの問題である。
政府の、農民へのコメ代金未払いの顛末については次回に。