前回、コメ代金を政府が払えなくなったのは、損益の問題ではなく、
金繰りの問題である、と述べた。
「タイの農民にコメ代金が入ってこない!(その1) 2014-1-28」
http://uccih.exblog.jp/20285696/
政府は、2011年のこのコメ抵当スキームの発足に当たって、
5,000億バーツ(1兆5千億円)の資金プールを設定した。
コメ資金を扱う国営の「BAAC」(農業農協銀行)から4,200億バーツ借り入れ、
これに政府の借入による資金800億バーツを加えての5,000億バーツである。
年度予算の枠外である。
しかし目論見がはずれ、この潤沢なはずの資金プールが底をついてきた。
農民から増産されたコメ(2年間で籾量で4,300万トン)を受け入れ、
高値で高額(2年間で6,800億バーツ)を支払う一方で、
2年間に売却できたコメの量は、せいぜい精米量で1,300万トン
(籾量で2,000万トン)ほどに過ぎなかった。
売却できたのは、半分以下だったと見られる。
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1年間に、経費も含めると買い取りに平均3,850億バーツもかかるのに、
これをカバーする収入は、政府の根拠のない市況回復待ち希望から
売却がままならず、年平均、半分以下の量しか売れず、
売れても低い市場価格だから、単価は、買い取りコストのこれも半分未満。
つまり、年平均700億バーツほどしかカバーできていない。
年平均3,000億バーツを超える流出が2年続いたことになる。
これで、5,000億バーツの基金プールも底をついてしまった。
ずっと世界一のコメ輸出国だったタイは、年間輸出量(民間+政府)が
2012年690万トン、2013年650万トンほどに落ち込み(いずれも精米量)、
世界第3位に転落した。
高値で、しかも余剰在庫を抱えることになったタイ米は、
ベトナム米やインド米にシェアを奪われていった。
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資金繰りを簡単に見ると、いま見てきたように、
2年間で、5,000億バーツの資金プールから流出する国費は、
6,300億バーツ(7,700億―1,400億バーツ)ほどと予想以上に膨らんだ。
「タイ産のコメなら、うまい、まずいを問わず、全量高値で買い上げる」という
政策だから、タイの農民は量の取れるコメを増産した。
その結果、収量は増え、買取価額は増大した。
一方、これをカバーする収入の方は、
‘世界があこがれる’と自負するタイ米を、政府が抱えこみ、
供給を絞ることにより高値で売れることをあてにした。
しかし、過剰状態にある世界のコメ市場からは在庫増の足元を見られ、
売却量は予定通りに進まなかった。
2年間で籾量にして 2,000万トンほどしか売れなかった。
2年間の収入代金は1,400億バーツにとどまった。
政府は、事あるごとに、中国をはじめとした外国政府との
「G to G」の大量契約がまとまったと言ってきたが、
いずれも証拠がなく、出荷の記録も欠く。
「国家反腐敗委員会」(NACC」からは、ここにきて
虚偽の報告ではないかと関係大臣たちが追及されている。
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結果、6,300億バーツの支払い超過となり、
5,000億バーツの基金が払底してしまったわけだ。
このあたりの読みの甘さは、政策運営が綿密に行なわれなかったためと見られる。
実際、前財務大臣のティラチャイ氏は、議会解散に追い込まれる前に、
キティラット副首相兼財務相はこの資金不足を予想できなかったのかと
批判している。
コメ政策を取り仕切る政府の「国家コメ政策委員会」(NRPC)も
委員長のインラック首相はほとんど出席しなかったようだし、
実際、細かく推移を数字でつかみ、金繰りを見積もる
人間がいなかったのではないかとさえ疑われる。
この点に関し、「国家反腐敗委員会」(NACC)は、
インラック首相以下、職務怠慢から腐敗を招いたと疑い、
弾劾を含め現在調査を進めている。
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借金を多く抱える農民にとって、3ヶ月以上の代金の支払い遅れは
死活問題である。
折りから、選挙がやってくる。
政府はあらゆる手を使って、金策に走らなければならない。
10月からスタートした2013/14年度(第3期目)のコメ抵当スキームでは、
一期米(10~2月収穫米)だけで、1,200万トン(籾量)、
1,900億バーツほどの買い取り代金の支払いが見込まれる。
しかし、1月末までに1,000万トン近く(1,600億バーツほど)供出されたが、
支払われたのは、500億バーツ(300万トン)ほどに過ぎない。
1,000億バーツ以上が政府から滞納され、
100万人近い農民は、3ヶ月ないしそれ以上現金が入ってこない状態だ。
これに対し、政府の農民に対する回答も実現されずに来ている。
直近の状況については、「その3」で・・・。