その多くが、前タイ貢献党政権のポピュリスト的政策による
ばらまき経済政策によるものであることを見た。
「クーデターの5月、タイ経済沈下の真犯人は? 2014-5-28」
http://uccih.exblog.jp/20754892/
そして、現在のタイ経済は、消費、投資が低迷している
背景に、経済失政で加速された“借金経済”の負荷が
官民に重くのしかかっている面を見逃すわけにはいかない。
「タイ人家計の借金は重荷になってきているか? 2012-5-15」
http://uccih.exblog.jp/15870529/
「先行き懸念されるタイ経済 家計の借入急増の負担は? 2013-7-20」
http://uccih.exblog.jp/19301742/
物価上昇もあり、
「タイの労働者の生活の質は、過去6年で最悪となっている」と
まで言われるが、タイの家計、企業、政府の借入残高は
どこまで上がってきているのだろう?
そして、その仲介役を務める銀行など金融機関の
健全性は保たれているのだろうか?
@@@@@
官民の借入負担が改善していく見込みがないならば、
単に経済局面が景気後退に入るだけでなく、
タイ経済は、その後に、大きな経済構造の
荒療治が必要となる。
現在ここまでの、各経済主体の債務状況を
4回に分けて、見てみることにしよう。
@@@@@
まずは、家計の借金の状況から見てみよう。
タイは、所得格差が大きな国だから、
低所得層の人たちは、いつも借金に頼りがちだ。
タイ人は、「明日は明日の風が吹く」という意識が強いから、
借入をした際の将来の元利支払いの負担など
深く考えないで、借入に飛びつきがちだ。
以前、タイ人の若い人と話をしたが、
車を買った上で、さらに住宅も買うという。
もちろんほとんどローンで買う。
「月々の収入に対する借入の支払いは毎月いくらになるの?
それでは、他の経費が出ないじゃないの」と
言っても、ともかく、車と住宅を持ちたいんだの一点張りだった。
@@@@@
そういう中で、2012年のタイ貢献党政権による
「自動車初回購入者税優遇」政策は、罪作りなことをした。
“自動車を欲しい若い層のお尻を持ち上げてやる”と言って
実施されたこの政策は、景気の先食いをして、
自然な景気サイクルをゆがめただけでなく、
124万人の制度利用者の多くに、その後大きな借金を残してしまった。
もちろん、国にも物品税還元の912億バーツ(2800億円)の
税収減負担がかかり、その負担は今年度(2013~14年度)も
続いているが、無理して購入した層のローン残高は膨れ、
現在の消費差し控えの要因になっている。
そのため、車の次に手を出すはずだった住宅のローンを組むのも
難しくなってしまった。
2014年に入り、住宅ローン申込者のうち、既存ローンのレベルが高く
撥ねられる比率は、15%に上がってきている。
@@@@@
タイの全2,030万世帯の家計の借金は、2013年3月末で総額9兆バーツ
(28兆円)に達し、GDP比78%の水準までになったと言われる
(2008年は56%)。
もっともこれは、個人企業等の債務も含む数字と思われ、生活のための
借金は4兆バーツ(12兆円)ほどであろう。GDP比33%ほど。
これも、もちろんここ数年増加してきている。
バイクよりも車を持ちたい、自分の家を持ちたい(タイの持ち家比率は80%と
高い)といったニーズに対して、低利の住宅ローン、また最近はクレジット・
カードが普及してきている。
@@@@@
家計の借入増に伴い、
“デット・サービス比率”、つまり月々の所得に占める借入の元利負担が
上がってきている。2013年末で平均34%(4年前の2009年は24%)。
これは借金のある世帯(ほぼ半分近く)の平均だが、
負担に耐えられないと言われる40%ラインに近づいてきている。
ことに、月収1万バーツ(3万円強)未満の低所得層のD/S比率は、
61%(2009年は45%)と突出している。
この世帯は、全世帯数の35%ほどを占め、700万世帯(2200万人)
近くある。
「タイ商工会議所大学」(UTCC)の1237世帯を対象にした
最近の調査によると、一世帯あたり平均のローン残高は168,500バーツ
(約52万円)、月々の支払いは11,000バーツ(約3万4千円)に及んでいる。
最低賃金や公務員初任給の大幅引き上げにより、物価も上がっている
ことから、借金増は、耐久財中心に購買を控えさせている。
@@@@@
住宅ローンの残高総額は、ほぼ2兆3,000億バーツ(7兆円強)。
自動車初回購入奨励策で、家計の借り入れ増は、5,000~6,000億バーツ
(1兆5000億~1兆8千億円ほど)増えたと推定される。
自動車を購入した100万世帯強の家計では、
住宅購入の頭金以上が消えてしまった勘定になる。
@@@@@
当面しばらくタイの家計は、支出の抑制を余儀なくされよう。
個人消費は伸び悩みそうだ。
幸い、銀行はじめ金融機関が住宅ローンやその他個人向け融資に
対して警戒的になってきているので、
金融システムとしての“システミック・リスク”は限られよう。
次回は、企業、なかでも景気に翻弄されがちなタイの中小企業の
債務状況も見ておこう。