かつての“優等生”は、“要注意人物”になってしまった。
政治の罪は大きい。
民主党政権の最後の年2011年9月度
(タイの財政年度は10月から翌年9月まで)は、
リーマン危機を乗り切った後のタイ経済の拡大期だった。
歳入の予想以上の増加もあり、
財政赤字は3,000億バーツ(9,300億円)を切るほどで、
GDP比2.6%ほどと小さかった。
折からの欧州主要国の財政悪化傾向と対照的に、
タイの財政状態は優等生に近く、
2017年度財政均衡の目標も実現可能に見えた。
「先進国と対照的なタイの財政赤字の縮小 2011-2-6」
http://uccih.exblog.jp/12825375/
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しかし、2011年8月に政権に就いたタイ貢献党の
ばら撒き政策とこの年10月のタイ洪水により、状況は
大きく変わった。
インラック政権初年度の2012年9月期の財政赤字は、
歳出が二桁近く増え、歳入の伸びを上回ったため、
タイの財政赤字は、4,000億バーツ(1兆2,400億円)ほどに
広がってしまった。
財政赤字のGDP比は、3.6%ほどになり、
大きな借入増なしに、経済成長の中での自然増収で賄える
といわれる3%ラインを超えてきた。
「青信号から黄信号に変わったタイの財政事情 2012-1-18」
http://uccih.exblog.jp/15290556/
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そして、2013年9月期、自動車初回購入者に対する物品税還元や
住宅補助、さらに法人税、個人所得税の減税が始まり、
財政赤字はなお3,500億バーツ(1兆1千億円)ほどと、
GDP比3%ほどであった。
タイ貢献党政権が途中で解体した今2014年9月期は、
今までの需要先食い策のつけで経済が停滞し、
政治抗争も高まり、さらにコメ抵当スキームで
コメ代金が回らなくなり、予算の予備費からの支出となりそうだ。
今年度はまだ4ヶ月ほどあり、軍事政権の経済てこ入れで
(おかしな話だが)、景気も少し上向くにしても、今期も
法人税減税がフルに効き、税収も伸び悩みそうなので、
政府がマヒ状態に陥ったため、歳出が滞った節約要因があったにしても、
なお2,500億バーツ(7,800億円)以上の財政赤字と見られる。
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来2015年9月度は、軍事政権下での予算承認となるが、
景気のてこ入れ策も志向されており、
歳出は、今年度比3%前後の増加(2兆5,500~2兆6,000億バーツへ、
7兆9千億円~8兆円)となりそうだ。
歳入見通し2兆3,500億バーツに対し、
今年度同様の2,500億バーツほどの赤字が計画されそうである。
今後経済が順調に回復してくれれば、
この程度の財政赤字なら問題ない事になるが、
実際はどうなるだろう?
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財政赤字の積み重ねにより、
タイの公的債務の残高も急増してきている。
3年近く前の2011年9月当時のタイの公的債務残高は、
4兆2,300億バーツ(13兆円強)と、GDP比42.5%ほどで
欧州諸国などに比べると優等生だった。
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それが、インラック政権のポピュリスト的経済政策、
しかも実現しなかったが借入中心の公共投資政策により、
借入は増加した。
「GDP比50%に近づいていくタイの公的債務残高 2012-3-20」
http://uccih.exblog.jp/15647515/
タイ貢献党政権下で増大した公的債務残高は、
2013年9月末には、5兆3,900億バーツ(16兆7千億円)へと、
2年間で1兆バーツ以上も増えてしまった。
財政赤字補填のための借入増、
また国営企業の借入増や政府系銀行の債務増加により、
前年度末には、公的債務はGDP比47.1%にまで上がってきた。
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もちろん、GDP比100%を越す国が見られる先進諸国に比べれば
ましだが、その上昇テンポは、年率2.3%ポイントの急増である。
タイの財務省は60%をその天井としているが・・・。
来年度、タイ貢献党政権は退いたとはいえ、
景気てこ入れのため借入による公共投資なども始動しようから、
タイの公的債務の行方からは目が離せない。
タイはいま、家計の借金増大、中小企業の借入の困難さ、
国営金融機関の不良債権の増加、
そして国の公的債務の急増と、4つの借金増問題を抱えている。
これをほぐしていかないと、経済成長は難しくなりそうだ。
(タイの借金増4回シリーズ終わり)