タイ政府のコメ抵当スキームがのっぴきならないところへ
やってきたことをお伝えしたが、ここにきてさすがに政府の方からも
見直し機運が出てきた。しかしその顛末は?
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2013年6月13日、ブーンソン商務相の記者会見の6日後の
「NRPC」(国家コメ政策委員会)で、彼ははじめて、
タイ農民協会からの示唆として、コメ抵当(買取)価格の引き下げを
ほのめかした。
この会合でも損失額は確定できなかったが。
名目的ながら委員長であるインラック首相はこの日、出席しなかった。
「2年間の損失は3000億バーツを超えよう」という
財務省債務:費用小委員会の数字がショックを与えた感じだ。
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ちなみに、このコメ抵当スキームは、ただ量さえあれば、
その分、政府が高値で買い取ってくれるというスキームだから、
政府の損失(納税者の負担)は、農民への‘補助金’と見ればいいが
(ただし、まるまる農民にいかず、業者や役人に流れやすい仕組み
となっており、汚職の源泉とも批判される)、タイの米作の質も
損なうことが懸念される。
質の高いコメも低いコメも一緒に倉庫に入れられる。
タイのコメの生産量は、世界のコメが過剰がちにもかかわらず、
この政策のために何割か増えているはずだ。
みかん、ランプータン、ドリアンなどの果樹園さえ早期収穫米に
変えられているという。
一方、有機米など手間のかかるコメ作りは敬遠され、品質の改良も
措いて行かれる。
タイのコメの国際的信用も損なうとも懸念される。
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在庫増の問題は、政府にとっても頭の痛い問題だ。
「在庫期間が長くなるので、燻蒸消毒が繰り返され(通常は半年に1回だそうだが)、
在庫米の色はくすみ、かび臭いにおいを放つので、スーパーのブランド米に
入れて売られている」と言ったうわさが立つほどだ。
政府はもちろん否定している。
こういった中で6月16日(日)に行なわれたバンコクのドンムアンの補欠選挙では、
民主党のタンクン候補が、タイ貢献党のユラヌント候補を破り、与党タクシン派の地盤を
37年ぶりに野党民主党が取ったりしている。
コメ抵当スキームへの懸念も与党への批判票になったと言われる。
また、世論調査でも、このコメ抵当スキームの顛末で政府は信用を失ったのだから、
インラック首相は辞任すべきだとの声が30%あった。
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その5日後、6月18日のNRPC緊急会合で、
コメ買取価格の引き下げが提案された。
今のトン15000バーツ(普通米)を13500~12000バーツに下げる
方向で検討されたが、この日は結局2割カットの12000バーツと決まった。
同時に無制限だった買取り量も、1戸当たり50万バーツと制限が入った
(普通米で40トンほどとなる)。
今期の2期米を対象に、早速6月30日から施行されることになった。
これにより、年間2500~2600万トンに増えてきた供出米を、
1400~1500万トンに4割がた減らして絞る、
また買上げ価格も低くし、政府の負担を減らす方向だ。
量と価格合わせて、買い取り価額の負担を半減させたいことになる。
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政府は、「世界のコメ市場の変化により、変えざるを得なくなった」、
また、「財政の規律を保つために必要な措置だ」と説明しているが、
世界のコメ市場でコメがだぶつき気味なのは、政策導入以前からで変わらない。
「FAO」(食糧農業機構)の今年4月の見通しでも、
今年の世界のコメ生産高(籾量)は2.1%増の7億4670万トン
(精米ベースで4億9770万トン)。増加分だけでも1600万トンに達する。
輸出国は増産し、輸入国は自給努力を進める。
コメの国際相場は、なお軟調である。
「世界最大のコメ輸出国タイが在庫を貯めて輸出を渋れば、
タイ米は高く売れるだろう」といった市場経済を無視した政策が
破綻したにすぎない。
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農民は、もちろん大反対だ。
「今までのトン12000バーツと言っても、含水分が多いと15%がた引かれるなど、
実際は9000~9500バーツしか得られていない」、
「それを引き下げるとなると、農家のコスト8000バーツくらいから利益が出なくなる」と
反対している。
さらにこのやっかいなコメ抵当スキームは、問題の種に尽きない。
「今年度産のコメのうち260万トンが倉庫から消えた」とか(真偽不明)、
汚職の種にされやすく、品質低下懸念も含め、コメ倉庫の検査の手間が
多くなる。
タイ米(5%砕精米)の直近の輸出価格はトン532ドル。
インド米は445ドル。ベトナム米は370ドル。
輸入国が自給努力を進める中で、どこの国が高めのタイ米を
買ってくれるのだろうか。
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いろいろな問題を抱えながらも、政府はこの目玉政策を
やめられない。
かろうじて、価格・買取量の制限で、負担を減らし、
凌いでいこうという状況だ。
と思っていたら、決めたことがまた覆ることになる。
(続く)