2015年のアセアン市場統一を控え、ベトナムやインドネシア、
さらには今後のミャンマーの追撃もあり、今、分岐点に差し掛かっている。
その中でいつも話題になるのは、労働生産性の伸び悩みである。
2010年までの10年間で、GDPは53%伸びたのに、労働生産性の
伸びは27%と、経済の伸びの半分の伸びだった。
タイ貢献党の政策により、賃金が今年、来年と大きく引きあがるので、
生産性のアップがいっそう必要になる。
最低賃金は、今年の4月より、バンコクなど7県で一日300バーツに引きあがり、
学卒新入社員の月給は、官庁中心に15,000バーツ以上となった。
それから4~5ヶ月経ち、現在の状況が少しずつ見えてきた。

大幅賃上げにもかかわらずインフレは落ち着いており、経済も成長しているので、
政府は、「心配されていたインフレ、経済への悪影響は杞憂だ」と
言っているが、昨年の洪水後の成長率としては、第2四半期の前期比年率4.2%
の伸びは高くないし、インフレは世界の景気後退で沈静しているだけだ。
さらに、最低賃金300バーツについては、
十分企業が導入していないと労働側からはクレームが多い。
4月以降3ヶ月強で、5134件の苦情が、苦情センターに寄せられているという。
確かに、中小企業にとっては、一挙40%の最低賃金引き上げは死活問題であり、
福利厚生負担部分を削ったりしながら、
実質的インパクトが小さくなるようやりくりしている。
言い方は語弊があるかもしれないが、
企業努力で賃上げのインパクトは抑えられている。
もっとも、正念場はこれからだ。
残る70県の来年1月からの最低賃金の引き上げ率は、
今年4月の高賃金地域の40%増に比べ、平均70%アップとなるから、
浸透しだいでは物価に跳ね返っていく。
学卒月給15,000バーツにしても、民間企業はまだ受け入れに躊躇しているようだ。
タイの失業率は、5月で0.9%と低いが、
失業者の数自体は、1年前の20.4万人から35.9万人へと1年間で76%も増加している。
失業者35.9万人のうち、42%を占める15.2万人がいまだ職に就けない学卒だった。
前年の7.5万人から倍増している。
高賃金の学卒は、企業から敬遠されているようだ。
学卒は、高賃金を保証してくれる官庁への職に向かっている。
官庁の学卒が最低月15,000バーツで浸透すれば、
企業も競争上、今後払っていかなければならないだろう。
現政権の賃金大幅引き上げ策は、中進国たらんとする
タイの一種のばくちかもしれない。
低い賃金水準を引き上げることによって、労働集約型産業からの
脱皮を図り、さらにはこれによっていやでも労働生産性を高めなくては
ならないということになる。
しかし、結果うまくいくかの保証はない。
へたをすると、自国企業を含め、企業に少しずつ近隣の
ベトナムやカンボジア、さらにはミャンマーに逃げられてしまう。
もちろん、賃金水準は、工場立地の条件の一つに過ぎず、
タイのインフラ、法制含め優位性はなお高いが・・。
労働生産性を上げるには、
企業にもっと最新鋭の機械を入れさせるようにすべきとか、
企業と職業学校のタイアップで、働くのに必要な技術や手法を
もっと学ばせ、学生の就職時のミスマッチを減らすべきとかの
アイデアが聞こえる。
それはそれなりの効果はあるだろうが、
タイに暮らしていてタイ人を見ていると、
もっと根本的なところを変えないと生産性アップには
つながらないように見える。
つまり、働くときの基本姿勢をまずはきっちり確立させるべきだろう。
・約束は守る
・時間もなるべく守る
・きちんと連絡はする
・身の回りはきちんと片付ける
・上司じゃなくて、お客のために働く
・客に対するサービス精神を出す
・どんな作業もなぜそうするのかを問う習慣をつける
など、など、基本的な働く姿勢を作らないと、
機械より人件費のほうがよほど安いこの暑い国で、
生産性の上昇などは、単に結果の統計数字を見るに
過ぎないままで行くだろう。